今から100年前、大正11(1922)年に會津八一(1881~1956)の強い勧めで、写真家・小川晴暘(せいよう)(1894~1960)は奈良市登大路に文化財写真の専門店、飛鳥園を創業しました。八一は、晴暘の撮影に同行して写真集を監修し、店の看板も八一が揮毫するなど、様々な協力を行っています。
八一が監修した晴暘の仏像写真には、大きく二つの新たな試みがありました。一つは、黒い背景によって仏像を浮かび上がらせる試みで、これは輸入された洋書のギリシャ・ローマの彫刻写真集を意識して制作したといいます。
もう一つは、細部の撮影です。仏像の美しさを強調するために手足や衣文などの細部に注目し、その構図と照明も工夫して撮影しています。
この黒い背景、細部を撮影した仏像写真は、飛鳥園の代名詞の一つとなり、晴暘は多くの名作を生み出しました。飛鳥園は、文化財を「記録」だけではなく、「鑑賞」いう新たな視点で、現在の文化財写真の新たな潮流を築き上げたといえるでしょう。
本展では、飛鳥園の仏像写真の逸品とともに、八一の歌書作品を紹介いたします。また、日本で最初の世界文化遺産に登録された法隆寺に遺る八一の作品など、奈良ゆかりの資料もあわせて展観いたします。