溢れんばかりの色の奔流と力強く伸びやかな線。そのなかにあらわれるのは、動物たちや人間たち、あるいは幾何学図形や化学記号や言葉の連なり。重なりあう色彩と支持体の形態、それらをぬって動き回る形象が織りなす混然とした世界を牛島智子は生み出します。
牛島智子は1958年八女市に生まれました。九州産業大学時代を版画教室(後のIAF芸術研究室/福岡市)に通いながら過ごした牛島は、卒業後は上京しBゼミ(横浜市)に所属、ミニマル・アートやニュー・ペインティングなどの動向に触れ、様々な実験と制作を繰り返し関東を中心に活躍していました。90年代の終わりに福岡へ拠点を移し、以降、同地で八女櫨研究会の立ち上げやワークショップの開催などにも取り組みつつ作家活動を続けています。木蝋や八女和紙、コンニャク糊などの素材を使い、その地の風土・人物・労働などもモチーフとしつつ、ボーダレスに展開する牛島智子のエネルギッシュな作品や活動は、生きることそのものがはらむ想像力のきらめきに満ちています。
本展では、牛島智子のこれまでを振り返り、これからを描きだすことを試み、80年代の初期作から、90年代前半のシェイプド・キャンパスの大作、福岡に拠点を移した頃のドローイングや絵画、そして新作のインスタレーションまでを展観します。
牛島智子作品の各時代のエッセンスを抜き出した本展は回顧展であると同時に牛島のイマジネーションに特有の飛躍とユーモアで撹拌された、一つの大きなインスタレーションとも言える展覧会でもあります。牛島の人生や作品をたどる二つの異なるステップが、ときに先達たるアーティスト達の道行と、ときに時代や社会の諸相と、交差し共鳴し合いながら巡り廻って、「繭」の新作インスタレーションへ結実するとともに、線的軌跡と円環的軌跡をはらんだ螺旋状の世界を軽やかに広げて行きます。諸々の作品と時代や地域、めぐりあった人々や物事が、多重に、多声的に響き合い、胚胎する牛島智子の世界をお楽しみください。