バブル崩壊、新型コロナウィルス感染症、さらに戦争という厳しい社会状況のなかで、美術には何ができ、わたしたちに何をもたらしてくれるでしょうか。我々と同時代に生きる多くの現代作家が、様々な立場で社会と向き合い制作してきました。ある作家は自らの心のうちを見つめ、またある作家は我々の置かれた現代特有の諸問題、例えばゴミ問題や温暖化などに目をむけて描いています。
近年、社会を批判しタブーに対して異議を唱える作品が論議を呼ぶ一方で、わたしたちと同じ立ち位置で生活し、悩み、逡巡しながら制作する作家の作品は、我々が社会でふと感じる生きづらさや違和感を提示し、密接に寄り添い共感を呼ぶものであるはずです。
そこで本展では、こうした厳しい社会のなかで自らを見つめ、また社会の諸問題に向き合って制作する現代作家を紹介し、そこに時代的な共通性を探るとともに、根源的に人間の営みと直結してきたはずの美術の役割を思い返し、復権させる一助としたいと考えます。
作品とはその時代の鏡であり、我々を映すものでもあります。作品を見ることで自らや社会を見つめ直し、共感したり心をざわつかせることは、必ず今を生きる糧となり将来へと続く道を照らしてくれるはずです。