熊谷好博子(大正6―昭和60)は、昭和30年代から50年代にかけて活躍した東京友禅の作家です。その作風は、初めは伝統的な友禅の意匠や技法を踏襲したものでしたが、それまでの友禅には見られなかった新しい試みを展開しました。
その一つは自身が「天然自然の造形」と称し、人の手では生み出すことのできない自然の形象に着目したことです。樹木の杢目、葉の形や葉脈、石のざらざらした表面などを生地に写し、自然の美を着物の文様に取り入れました。また、それまでの友禅の具象的な文様に対し、直線や曲線で構成した幾何学文様も熊谷好博子独自の表現で、現代的な感覚にあふれています。そして、それらの作品は多色を用いずモノトーンを基調とし、落ち着いた色づかいに特徴があります。
本展は友禅の新しい道を拓いた熊谷好博子の作品を、長女のみづほ氏から寄贈された着物とパネルを中心に50点余り紹介します。