私たちはどこに立っているのか
雨上がりの道、水たまりに私の視線は吸い寄せられる
そこには木々や空、街並みが映っている
足下だけが映らない
私はどこに居るのか
二つの相似の世界
水を蹴る
水面は揺れ、二つの世界が混じりあう
その繋がれた場所に私たちは立っている
そして絵画が生まれる
2022年8月 丸山直文
水面に映る景色のように丸山直文の絵画は画面の上で揺らぎ続ける。視点は定まらず、絵は滲むようにキャンバスの外の世界へ広がり、観客それぞれが持つイメージと繋がったり、また離れたりする。山は川と混ざり、川は空と混ざり、そして私たちと混ざり合う。名辞的な世界から解放されたもう一つの世界がそこにある。
丸山はキャンバスの上に水を張り、水を通して画布に絵具を染み込ませながら描いている。「湿地帯のような『場』で制作している」というその手法によって、描いている過程で色も形も、作家の目的も変化し続ける。不安定で流動的な環境においてどのようなイメージを育てることができるか、そして不安定で流動的なリアルにおいてそれらはどう映るのか、丸山の関心は水というミディアムを通して探求され続けてきた。
絵画は物質的な側面を備えつつも静的な存在ではない。時間や場が変われば、その意味も変化する。その自由を受け入れる容れ物として、ゆらゆらと捉え所のない丸山の絵画はむしろ優れて柔軟な強度を持っているといえないだろうか。
2018年に発表されたグレーの絵具のみを用いて制作された作品群を経て、本展では改めて多様な色彩の魅力も発揮し、3メートルを超える大作を含めた新作群を一挙に披露する。
2022年8月 シュウゴアーツ