中村信喬は、1957年福岡市で博多人形師の家系の三代目として生まれました。幼いころから人形師である父・衍涯の仕事を見て育ち、1975年に九州産業大学芸術学部に入り彫刻を学びます。大学を卒業するとともに京都へ修行に出て、林駒夫(人形作家)、村田陶菀(陶芸家)、北沢一念(能面師)らに師事し、人形制作のために幅広い技術を学び、腕を磨きました。1983年から西部工芸展に出品し、89年には日本工芸会正会員に認定されます。1996年から今日まで夏の神事「博多祇園山笠」を彩る人形を作り続け、また太宰府天満宮御神忌千百年大祭では「御神牛」を制作。こうした地域文化への貢献や、技術の継承への幅広い取り組みから、2022年に福岡県無形文化財工芸技術「人形制作」保持者に認定されました。
中村は一つの作品が完成に至るまでに、歴史的背景への徹底した調査を行い、モデルとなる人物が歩んだであろう道に自ら立ち、感じたであろう空気を感じ、モデルと自らを重ね合わせます。そうして作品に込めた尊敬と祈りの念は、見る人の心を揺さぶり、感動を生むこととなるでしょう。
本展では、人形師中村信喬の初期の学生時代の作品から近作「エヴァンゲリオン」を含む40余点を展示し、紹介することで、固定観念にとらわれず、意外に、そして自由に挑戦し続けるプロの姿をご覧ください。