多彩な作風で幅広いファンを持つ漫画家・山下和美。代表作『天才 柳沢教授の生活』を人間愛に満ちた眼差しで30年にわたり描き続け、『不思議な少年』では時空を超越した存在を通して人間とは何かを問いかけてきました。人間の本質に迫ろうとする山下の探求心は、世界と断絶した山村を舞台に描いた長編『ランド』で新たな境地に至り、2021年、本作で第25回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞します。
一方で山下はデビュー直後の作品から、人間が暮らし集う場所としての「家」にも並々ならぬこだわりを持って描いてきました。その思いは和を極めた数寄屋造りの自宅建設に結実し、完成に至る顛末を『数寄です!』『続・数寄です!』にコミックエッセイとして綴ります。2019年、世田谷区豪徳寺にある明治時代の洋館(旧尾崎邸)の解体計画を耳にした山下は、数寄屋の建築家らとともに保存のために動き出しました。そのドキュメントは『世田谷イチ古い洋館の家主になる』となり、さらに最新作『ツイステッド・シスターズ』でも同洋館をモデルにした館を舞台とするなど、「家」に重心を置いた山下作品は進化を続けています。
本展では、山下のライフワークである『天才 柳沢教授の生活』『不思議な少年』、『ランド』、そして世田谷の自宅と洋館にまつわる『数寄です!』『続・数寄です!』『世田谷イチ古い洋館の家主になる』『ツイステッド・シスターズ』の原画を展示。あわせて、柳沢教授のモデルとなった父と漫画家だった姉たちなど家族の資料や、デビュー前の作品も初公開。約150点の作品と資料により、山下和美の作品世界に迫ります。