美術館で不知火海を読む
本展では、書物やマンガ、古典芸能など古今東西のテキストや語りの言葉を猟歩し、創作を行う現代アーティスト中野裕介/パラモデルが、不知火美術館のために構想した新作を発表します。鉄道玩具のレールなどを素材に、空間をジャックするようなインスタレーションで注目されるパラモデル。今回は、「図書館とは世界の模型であり、世界は永遠に完成しない一冊の巨大な書物」と空想する中野が、不知火海や熊本にまつわる文学や芸能をリサーチして、複数の映像と巨大なドローイングを大胆に交錯させ展示室の空間全体を作品世界に変容させます。
中野は、自身の出身地・東大阪に生まれた「俊徳丸」伝説を十年以上追い続けている中で、かつての熊本で、盲目の人が琵琶をもち、門付けや神事、説教節などを語って移動し生計をたてていた「琵琶法師」と呼ばれる人々にたどり着きます。
どの地域でも歴史の中で負った「傷」を、人々は時に芸に反映させ、時に哲学を生み出してきました。不知火海から生まれた石牟礼道子の作品は、水俣の負う傷と向き合う中から生まれています。石牟礼道子や肥後琵琶の語りを導き手に、テキストや風景の断片と自由に戯れる中野の眼差しを通して、アートも含む表現が、その土地の傷と対峙し生み出してきた創造力を感じ、考える機会となれば幸いです。