本展では、小諸市立小山敬三美術館の所蔵コレクションより、中村研一より二歳年下の洋画家・小山敬三(1897-1987)の風景画を中心とした画業を振り返ります。
小山がどんな絵を描いていた画家かは表(おもて)の《浅間山・風》(1966)を見れば、一目瞭然でしょう。簡略に描いているようで、細部まで考え抜かれた構図。雲間に見上げる浅間山の圧倒的存在感・安定感は「すごいなあ」と素直に感嘆させる力を持っています。
長野・群馬県境に聳(そび)える活火山・浅間山の南麓を望む小諸に生まれた小山敬三は、その山容に強く惹かれ、戦後は軽井沢に浅間山の美しく見える別荘を構えたほどでした。この別荘からの眺めを中心に、晩年に至るまで四季折々の―晴れた日、雪の日、時には間近や遠くから…さまざまな浅間山の様子を描いた作品が制作されています。画家の人生をフルコースのディナーに例えるなら、「浅間山」は小山にとって戦後円熟期にふさわしい集大成、メインディッシュに相当するモティーフだと言えます。
メインディッシュはディナーコースのクライマックスです。そこに至るまでには工夫を凝らした前菜やスープが饗(きょう)され、舌を楽しませるもの。十代の終わり、水彩による風景画に興味を持ったことをきっかけに絵画の道を志した小山は、島崎藤村の薦めを機にフランスに留学し、精力的に西洋絵画の技法を学びました。そして、滞欧中に目にした南仏やスペインの風景、旅行で訪れた中国の石造りの民家などの中に、卓越した構図を見出します。たとえば《河畔(トレド)》(1927)など留学期の作品を見れば、小山が対象を意匠化・単純化しながらも構図を工夫することで、モティーフの持つ存在感を描き出そうとしていたことが伺えます。こうした構図の追及が、戦後の浅間山の表現を培っていくのではないでしょうか。
小山敬三が生涯を通じて風景へと向けた視線は、言うなれば浅間山へと至る壮大な「コース」であると同時に、それぞれのモティーフの持つ存在感を確固とした像(イメージ)として可視化し、捉えようとする試みであったと言えます。是非とも展示室で、小山の視覚によるフルコースを心行くまでお楽しみいただければ幸いです。
併せて二階展示室では、当館所蔵の中村研一による風景を主題とした作品を展示いたします。