ヒノギャラリーでは2022年6月13日(月)より「神田喜和子 新作展」を開催いたします。
神田の絵画制作における長年の興味は、色彩とマチエールがあげられるように思います。少しずつ絵具を調合しつくり出す色彩は、厳密にいえばひとつとして同じものはなく、100を超える色見本やこれまで試作したデータをもとに新たな掛け合わせを考えていると、その果てしない可能性に夢が広がるといいます。またマチエールは、神田の作品においては偶発的に画面に現れることがほとんどですが、支持体づくりもこなす作家にとって、素材(物質)と切り離すことのできないその事象への関心は、自明のことなのかもしれません。
最近は、画面の中で起こる「視覚的な混乱」を興味深く見ているといいます。それは「図と地」の関係に置き換えられるような、錯覚がもたらす、視覚を含む知覚の混乱といえるかもしれません。神田は具体的なイメージを一切決めずに描き始めるのですが、はからずも、ある種の「イメージ」が立ち現れたとき、それはより強い印象を持って画面を支配しようとします。その瞬間、画面の中の均衡が揺るぎ、混乱が生じます。しかし、「イメージ」とはとても曖昧なもので、それを感受する知覚もまた、錯覚という現象が裏付けるように、確然たるものではありません。「物質的な現れ(表情)」にこそ魅力を感じるという神田にとって、物理的な現象と心理的な現象の駆け引きは常に制作にともなうのですが、ただ、「イメージ」とはある意味で物質によって導かれるものでもあります。浮かび上がる形象やマチエール、色彩などから、作家自身の、または鑑賞者の意識が誘発され、何らかの「イメージ」が創出されるとすれば、その契機になっているのはほかでもなく、神田が魅力ととらえる「物質的な現れ(表情)」によるものといえるでしょう。
神田の弊廊での個展は4年ぶりとなります。作品に現れた表情から、さまざまなイメージを感じ取っていただけたら幸いです。