本展覧会は朝顔をモチーフとして親子の愛情をテーマとしている。朝顔に着目した理由は、紫の花を咲かせる朝顔をゲノム編集によって白い花に変化させることができたと知り、朝顔からデザイナーベビーを連想したからだ。いつか子どもをデザインする時代が来るかもしれない。その時にも親子の愛情は変わらないのだろうか。
そこでこのテーマを扱うにあたり、展覧会名を「月が綺麗ですか」とした。この展覧会名は夏目漱石がI love youを「月が綺麗ですね」とでも訳せと言ったというエピソードに基く。タイトルの「月が綺麗ですか」は、Do you love me?という問いである。科学技術の進歩によって、親子の関係は劇的な変化を遂げる。子どもを生む前にすでに理想どおりの仮想の子どもがデザインされる時代を迎えた時、子は親に「月が綺麗ですか」(Do you love me?)と素直に問いかけることができるのだろうか。いつまでも親子の愛情は変わらないのだろうか。
「月亮代表我的心」(月は私の心を表している)という歌が1973年に台湾で発表され、1977年にテレサ・テンによってカバーされた。この歌は1989年春、天安門広場で一週間に及ぶハンガーストライキを決行する若者たちが声を合わせて歌った曲でもある。この冒頭の「あなたは私にどれくらい愛しているのかと聞く」という歌詞は、天安門においては顔の見えない国家に対し、若者たちが私たちを愛しているの?と問いをたてているようにも思われる。そしてこの歌詞は「私の想いも本物で 私の愛も本物なの/月は私の心をあらわしているの」と続く。これを歌うとき若者たちは、当時自由を主張していた自分たちを、国が変わらず愛していてほしい、と切に訴えていたのではないかと思う。
そしてこの歌は、本展示における問いに対する答えともなってほしいと切実に願う。「月が綺麗ですか」(Do you love me?/你爱我吗?)と繰り返し問いかける心に、人は応えられるだろうか。そこに愛情は変わらずにあるだろうか。
それが本展覧会のもっとも大切なテーマである。
朝顔は月を見ることができない。
ただ「月は綺麗ですか」と問いかけるだけである。