「仏様や神様を信じるということはないね。やっぱり、わからんしね。だけど一つの信念は持っているかな。俺は生きるんだ、という。わしはこれがわたしの仏様であり神様なんじゃないかと思う。」(「わしの「山男」(アルプ教室講演)」『アルプ』第176号掲載(昭和57年10月)
「山は自分で入って観てそのよさが始めてはっきりするやうである」(「作者の言葉」昭和13年度日本版画協会カレンダー)
「芸術の道を進む人は、いつの時代でも現在に満足している者はない。はるか将来をいつも考えている。」(日記 昭和45年3月28日)
「山男」シリーズの版画で知られる木版画家・畦地梅太郎。1927年頃より版画作品の制作に取り組み始め、当初は都会風景を主に描いていました。畦地が「山」という生涯のテーマと出会ったきっかけは、1937年の夏、仕事で訪れた軽井沢で煙を噴き出す浅間山を見たことでした。その後、畦地は「山」を作品の主題とし、戦後には「山男」シリーズへと展開しました。畦地の表現は、山そのものだけではなく、山に身を置く人間の心象や精神性に向けられています。命をいつくしむようなそのまなざしは、あたたかく力強い作品となって今でも多くの人々を魅了し続けています。版画愛好家のみならず山岳愛好家からも絶大な人気を誇る、戦前の貴重な作品を中心に、畦地梅太郎作品を当館の収蔵品より一同にご紹介します。