現代の私たちの日常生活には多種多様な「コピー」が満ち溢れています。昨今のめざましいコンピュータ技術の進歩により本物と寸分違わない精巧な写真や印刷物の複製が次々に生み出され、さらには遺伝子操作によりクローン羊が登場するなど、その勢いは今後ますます加速するように思われます。
美術の領域では、これまで作り手の独創性やオリジナリティーが重視されてきました。しかし、過去の様々な様式を流用し再構築するいわゆる「ポスト・モダン」の到来以来、このような状況に大きな変化が兆しています。1980年代以降の美術、具体的には80年代のアメリカで展開された「シミュレーショニズム」と呼ばれる美術動向においては、独自の新たな表現を創出することにかわって、先人が描いたイメージを利用する表現が重要な位置を占めるようになっています。
引用の美学を創出したマルセル・デュシャンから、日用品のパッケージや映画スターの広告写真を引用したポップ・アートの旗手アンディ・ウォーホル、過去の名画を参照する森村泰昌ら約23名の作家による約135点の作品を通して、これまでまとまったかたちで検証されることのなかった美術とコピーの可能性について広い視野から検討を加えます。