写真のイメージをそのまま絵画に持ち込もうとするスーパーリアリズムは、1960年代後半のアメリカで産声をあげました。ラディカルリアリズム、フォトリアリズム、シャープフォーカス・リアリズムなどの名で称されるこの新しいリアリズムは、抽象的な表現が優先する当時の美術会に大きな衝撃をあたえました。敢えて抽象的な表現に背を向けた彼らの作品は、伝統的なアメリカ写実主義の流れを継承するものであり、また、その出発においてポップ・アートの影響も連想せずにはいられないアメリカならではの美術の動向と言えるでしょう。
自動車やショーウィンドー、大量生産による人工物などの日常的な風景を主題としたスーパーリアリズムの作品は、作家の主観的な表現をできるだけ抑え、カメラの眼によって定着されたイメージを忠実に再現することにより、今までにない客観性を作品に持ち込もうと試みています。身近なものをカメラの眼を借りてとらえ、その対象を細部まで正確に描写しようとするこだわりと熱意によって表された作品は、私たちの目と心を大いに驚かし、この驚きによって喚起された私たちの視線は、日々目にしていながら気づかずにいた美しい日常の風景へと誘われます。
写真を素材にした彼らの表現は、現実と写実、絵画と写真、具象と抽象など、芸術の本質に迫る数々の問いを投げかけながら40年という時を刻んできました。本展は、チャック・クロース、リチャード・エステスなど、代表的な27作家の油彩画を中心とした67点の作品で、現在まで継承、発展しつづけるスーパーリアリズム絵画の全貌を紹介いたします。