ギュンター・ユッカー ――現代ドイツ美術を代表するこの芸術家は、戦争で分断された東西ドイツの狭間で揺れ動きながらも、現実や自己と対峙し、精神的なリアリティーを追及する作家です。
ユッカーは1930年、ドイツ北東部のメクレンブルクに生まれ、戦後は西側に移住しました。1950年代末から国際舞台で活躍し、60年代には光の効果を作品に取り入れたグループ・ゼロに参加、大量の釘を用いた作品で脚光を浴びました。今回の展示会は、日本の美術館における初の個展となります。
本展は、ユッカーのこれまでの活躍を統括する、一種のセルフポートレートとして企画されました。しかしそれは決して、作家を過去のものとして歴史化することを意味しません。ユッカーの作品には、過去と未来が渾然一体となって同居し、見るものの心の中でその都度、再生されるからです。人間の本質から生み出される、普遍的なリアリティーがそこにあるといってよいでしょう。ベルリンの壁崩壊後の外国人排斥運動を憂いた作品が本展の核に据えられますが、それは現在世界中で起きている、悲しむべき問題にも通じているのです。
また今回は特別に、重要文化財「旧岡田家住宅」の酒蔵も展示会場の一部となります。西欧と東欧、そして日本。異文化が交差し、共鳴しながら、本展のテーマである「虐待されし人間」が、より重層的なイメージとして立ち上がってくることでしょう。
彼にとってのリアリティー、それは「生きる」ことであり、「生の体験」を感じ取ることです。どうぞユッカーのスケール感あふれる世界をご堪能ください。