日本は帝国主義の下、列強諸国と肩を並べ、無数の命を犠牲にし、暴力と戦争へと突き進んでいった時代があった。そして1945年、原子爆弾が投下された世界初の国となり、敗戦を迎えることとなる。
歴史において”戦争”は終焉することなく、繰り返され、暴力の余波は絶え間無く打ち寄せる。私の幼少時代は、イデオロギー、社会・経済体制の異なる東西陣営が対立する冷戦の真っ只中であった。そして、1989年ベルリンの壁崩壊からソ連解体の1991年には、旧衛星諸国の多くは独立を果たす一方、新しい境界線が引かれる次の紛争へと推し進められていく。
欧州では民主化を遂げた国の連帯が広がり、多くの犠牲者を出した20世紀の先の大戦に終止符を打つのよう、ある種幸福を享受したように感じられていたが、絶え間無く続く紛争、テロリズム、過激派の暴走、次に待ち受ける荒波へ、危機の瀬戸際に立たされていたのであった。ロシアのウクライナ軍事侵攻が激化する中、多大な犠牲者と暴虐を生み出し、ふたたび民主主義が脅かされ、試されている。この荒波に立ち向かい、全ての人々の魂に宿る光を、希望を奮い立たせ、消すことなく生きていくのだ。
2022年 米田知子
シュウゴアーツは2022年6月4日(土)から7月9日(土)まで、米田知子の個展「残響―打ち寄せる波」を開催します。ロンドンを拠点として活動を続ける写真家・米田知子は世界各地を舞台に、日常的には静穏な時間が流れる、かつての歴史的事象の現場、戦争や災害の記憶を宿す場所、人、ものを対象に制作を続けています。米田作品は綿密なリサーチをもとに歴史を検証し、構成的な写真表現に移し替えることでモティーフが内包するストーリーを再構築し、鑑賞者に新たな認知を促します。
本展においては21世紀においてもなお尽きることのない世界の紛争を、レンズを通して観察し続けた米田の視点から辿る構成となっています。破壊と復興により場所性を更新し続ける人間社会の姿を映し出すと同時に、粛々と生を営む名もなき自然の存在をフレームに捉える米田独自の感性は、20年以上におよぶ表現活動に一貫した詩的なトーンを与えています。今回は2000年代初頭から2020年までの間にフランス、ベルギー、ボスニア、サハリン、朝鮮半島の非武装地帯で撮影された作品を中心に展示を行います。どうぞご期待ください。
2022年4月 シュウゴアーツ