1902年(明治35年)に生まれた猪熊弦一郎は、まさに20世紀とともに生きた芸術家でした。20世紀美術の大きな流れの中にいち早く身をおき、若き日のわが国官展出品の作品から、フランス芸術の影響を経て、戦後のアメリカ美術へと接近し、多様に変貌しつつ、独自な作品を制作しました。氏の作品には20世紀絵画の歴史が凝縮されています。
猪熊は、1922年東京美術学校西洋画科に入学、藤島武二に師事、同期生にも荻須高徳、牛島憲之、小磯良平、中西利雄、山口長男、岡田謙三など互いに非常に異なる個性と作風を持った仲間がいました。戦前にパリ留学、戦後の作品は、マティス、ピカソなどの影響が特筆されます。しかし1955年の渡米を機に、本格的な抽象の時代に入り、ニューヨークの街にも強く惹かれ、近代的な「都市」をテーマにした作品を多数生み出しました。
本展は、あまり知られていない初期の優れた具象作品から、晩年の抽象・具象を越えた作品に至るまで、油彩画、ドローイングなどを多数展示し、モダニスト芸術家として未知の世界に果敢に挑戦を続けたこの画家の清新な魅力とその変貌の全容に迫ります。