本展では、棟方志功の板画作品において重要な要素である「模様」を取り上げます。棟方が終生板画で用いた表現手法に、モチーフの「模様化」があります。まだ独自の作風を見つけられずにいた頃、試行錯誤を繰り返す中で考えついたのが、自然のモチーフを模様として扱うことでした。そして、四季の植物を主題に、「大抵根元から枝の突端まで入れて描きますが、わたくしは、上と下をぬいてまんなかだけをとり入れて板画にしました。」(『板画の道』、1956年)というように、一部を強調、あるいは省略して構成した《萬朶譜》(1935年)を制作。モチーフを見たまま忠実にではなく、単純化した描写とデザイン的な構図で表したこの作品で、模様化の表現手法を確立します。そのため、棟方板画に登場する花、鳥、虫などの動植物、さらには風景や気象など、自然のあらゆるモチーフが単純ながらもわかりやすくおかしみも感じさせるような姿をしています。《萬朶譜》のように主役として画面いっぱいに配した作品、また人物像の身体やその背景に模様を散りばめた作品、模様化の手法を駆使した作品はどれも実に装飾的で華やかです。
棟方板画の中には縄文土器や土偶などに見られる模様を取り入れた作品もあります。遺跡の見学をしたり、青森市の医師で縄文遺物収集家の大高興氏にコレクションを見せてもらったりと、縄文に関心を抱いていた棟方。その表れなのか、《道祖土頌》や《運命頌》など、縄文遺物を思わせる破線や渦巻などを彫り込んだ人物像を、主に1950年代に集中して手掛けているのです。今回は、北海道・北東北の縄文遺跡群の世界文化遺産登録への祝福も込め、そうした縄文遺物の模様の影響が窺える作品にもスポットをあてます。現在は青森県立郷土館所蔵となっている大高氏の収集資料「風韻堂コレクション」の縄文遺物も併せて展示しますので、棟方の作品と実際の縄文遺物の模様との類似性にもご注目ください。