1904年に日本人の父とアメリカ人の母との間にロサンゼルスに生まれたイサム・ノグチは、幼年時代を日本で過ごし、その後アメリカとフランスで彫刻を学びました。第二次世界大戦中、2つの祖国の間で引き裂かれるように過ごしたノグチは、戦後凄惨な打撃を受けた人類の再生のために、文化と社会を結ぶ新しい芸術のスタイルを模索し始めました。そして1949年、文化研究の叢書を奨励する団体で、アメリカで有数の歴史を誇るボーリンゲン財団より奨学金を得て、ヨーロッパ、インド、東南アジア、日本などユーラシア大陸各地の古代遺跡や人々の生活を調査する旅に出ました。ノグチは1956年まで続いたこの旅において論文を完成することはできなかったものの、様々な文化において人々が交流し分かち合う空間を体験として学びとり、牟礼のアトリエの庭園や札幌のモエレ沼公園などのランドスケープ・デザインにつながる大きなヒントを得ました。
展覧会では、これまで日本ではほとんど紹介されてこなかったノグチ自身が撮影した遺跡踏査の写真180点を中心に、東南アジアの風俗を活写した珍しい絵日記風のおよそ100点のドローイング、肖像彫刻、石の彫刻、あかり、日本での陶彫、広島平和記念公園のための鐘楼のための模型や、大阪万博アメリカ館のための設計模型など立体作品30点によって、ノグチの抱いたランドスケープへの夢とこの旅の密接な関係を探ります。
加えて広島会場に限り、原爆慰霊碑の模型や平和大橋といった広島でのプロジェクトに関連する資料などもあわせて展示することにより、イサム・ノグチと広島との深い関わりを紹介します。