舟越桂がつくる人物像は、かつて出会ったことがあるような、どこか懐かしさをともないながら、静かにそして優しく私たちの心をとらえます。その遠い眼差しは、過ぎていく時間の彼方に時間を超えた永遠の高みへと、私たちを導くかのようです。
彫刻家舟越保武を父に、1951年盛岡に生まれた舟越桂は、1980年初めから楠を素材とした木彫りの半身像の制作をはじめます。大理石の目をはめ込んだ情感豊かな顔立ちと、彩色をほどこした柔らかい肌合いをもった人物像は、具象彫刻の新たな可能性を開くものとして大きな注目を集めました。その後、ヴェネチア・ビエンナーレやサンパウロ・ビエンナーレ、ドクメンタⅨなどの国際展をはじめ、数々の展覧会に出品を重ね、日本を代表する彫刻家としてめざましい活躍を見せています。
本展は、初期から最新作までの彫刻40点に加え、作家の着想や制作過程を示すドローイング19点により、舟越桂の創作の軌跡をたどる初めての本格的な回顧展です。昨年から日本各地を巡回してきた本展も、ここ広島が最終会場となります。
永遠の彼方に立ち現れてくる普遍性を備えた舟越桂の人物像は、私たち人間の存在について根源的な問いを投げかけているように見えます。ひとつひとつの作品と向かいあいながら、彼らのささやきにぜひ耳を傾けてください。