タカ・イシイギャラリーは3月19日(土)から4月16日(土)まで、イギリス人アーティスト、グラハム・リトルによる個展を開催いたします。リトルの作品が日本およびアジアで初公開となる本展は、2017年から2022年に制作された、新作を含む11点の作品を展示いたします。
わたしたちは事のさなかに到着し、手がかりを探し、何かを掴もうと試みる。その何かは、この絵がもつ永遠の”現在”のなかに存在している。絵を見つめるうちに、やがてほどけていく”現在”のなかに。リアルな過去とはちがう、つくり上げられた過去の幻想へとわたしたちを導く“現在”のなかに
マーティン・ハーバート「The Beautiful Ones」
『Graham Little:Inside the Water Sleep』、Alison Jacques Gallery、2019年
優美で物悲しい、淡色調のグラハム・リトルの作品は、1980年代半ばにリトルが初めて雑誌『ヴォーグ』を手にしたことから生まれました。その雑誌を飾る、慣習的な美しさと自信に満ちた女性たちの表現に特別な関心を抱いたリトルは、以来ずっと、ロンドンを拠点にしながらその関心に磨きをかけてきました。ヴィンテージのファッション誌のイメージを、鉛筆やグアッシュで数ヶ月かけて入念に再現するのです。そうして生み出される、まるで夢のなかにいるような超現実的なコンポジションは、美の認知について問い質し、見る者と見られる者の関係性を探求します。また、それらは男性の視点によって規定された「女らしさ」にも疑問を呈します。さらには、美と腐敗、空虚と存在、脆弱さと力強さ、生きている肉体とそれが占めている空間など、リトルの小さな作品からは緊迫した二項対立をも見ることができます。
リトルが描き出す繊細な室内風景に静かにたたずむ人物たちは80年代の『ヴォーグ』、『ハーパーズ・バザー』、ドイツのファッション誌『ブルダ・モデン』から引用され、彼女たちだけの、独立したリアリティーのなかに存在しています。ありふれた日常のディテールひとつひとつに細心の注意が払われた空間や環境の下に置かれているにもかかわらず、見る者は、静けさが醸す非現実性に促されて、彼女たちの身を取り巻くさまざまなシナリオを夢想することになるでしょう。キュレーターのローラ・スミスが言うように、「リトルの描き出す人物像はチェスの駒のように置かれています。認識力がぎりぎり及ばない時間と場所にあって、重大なポテンシャルを秘めているのです。」画面に配置されたものや工芸品、シックな装飾や風景がつくり出すナラティブは鑑賞者をのぞき見させるように誘い、人物を取り囲む背景があたかも夢の入り口のように感じられるのです。
グラハム・リトルは1972年イギリスのダンディー生まれ。ロンドン在住。1995年、スコットランドのダンディーにあるダンカン・オブ・ジョーダンストン・カレッジ・オブ・アート&デザインで美術の名誉学士号を取得。1997年、ロンドンのゴールドスミス・カレッジで美術修士号を取得。近年参加した主な展覧会に、「Mixing It Up: Painting Today」ヘイワード・ギャラリー(ロンドン、2021年)、V&Aダンディー(イギリス、2020年)、サマーセット・ハウス(ロンドン、2020年)、FLAGアート・ファンウデーション(ニューヨーク、2019年)、ボーフム美術館(ドイツ、2017年)、「Manifesta 11」(チューリヒ、2016年、クリスチャン・ヤンコフスキーによるキュレーション)、「Mark Leckey: Containers and Their Drivers」MoMA PS1(ニューヨーク、2016-2017年、ピーター・エリー、スチュアート・カマ― によるキュレーション)、「Drawing Now: Eight Propositions」ニューヨーク近代美術館(2002-2003年、ローラ・ホプトマンによるキュレーション)など。