春ぎらい
「いつか冬は終わる」「いつかまた春がやって来る」苦しい時、悲しい時そんな言葉をかけられる。
けれど私は春が嫌いだ。
土の中でずっとじっとしていたいのにざわめきが侵入してくる。
青みがかった透明な光に透過されて輝く新芽。
私の後ろめたさは同じ光に透過されて影をなくす。
まるで「悲しみは去ったのだ」となにもかも光で上から塗りつぶしていくようだ。
まだ起こさないでほしい。そんな喜びの歌を歌わないでほしい。
私はついていけない。私はまだ暗い底で眠っていたい。
春は暴力的な微笑みで、やって来る。
私の喪失も悲しみも光の中で影を無くしていく。それがどうしようもなく怖い。
今年も春が来る。あの透明な光とともに。
私の悲しみは、まだ手放したくないのに空に溶けていく。
花びらが空に舞った。
月本ちしほ