紙布(しふ)は木綿の代わりに和紙による糸(紙糸(かみいと))を織り込むことで作られる織物で、山陰や東北地方など木綿が貴重な地域で発展しました。特に宮城県の白石では、城主の片倉家が産業として奨励し、武士の内職として発展しました。
水戸在住の紙布作家の桜井貞子(さくらいさだこ)(1929-)は、当初、佐賀錦を制作していましたが、1977年に白石紙布(しろいししふ)に出会い、試行錯誤の末、その技術の再現に成功しました。桜井氏の紙布は紙を原料としますが、一流の職人が漉(す)いた、きめ細かなもの以外は使えないことから、紙布として完成するまでに長く根気のいる作業が必要となります。織の素材となる紙糸は茨城県内の西ノ内和紙や、新潟、山形で生産された和紙等を厳選して素材としています。これらの和紙を裁断したあと、平たい石の上で切った和紙を揉むことで紙糸は生み出されますが、その工程全てが桜井氏一人の手で行われています。
紙糸を用いた織物は通常、経糸(たていと)に絹、麻糸を用い、紙糸は緯糸(よこいと)に用います。こうしてできあがる紙布は、経糸の素材ごとに絹紙布(きぬじふ)、綿紙布(わたじふ)、麻紙布(あさじふ)と呼ばれます。これらの他に諸紙布(もろじふ)と呼ばれるものがあり、これは経緯共に紙糸を使用するため、制作について非常に困難が伴い、桜井氏の細い紙糸を作る技術があって、はじめて制作が可能となるものです。こうして生み出される紙布は、紙の特性として通気性がある上に、軽くて手触りも良く、さらに紙の繊維の結びつきによって丈夫なことから洗濯が可能で、着物のみならずシャツ等のさまざまな用途に仕立てることができます。
本展では90歳を過ぎた現在も、紙布の可能性を追求し新たな挑戦を続けていく、桜井貞子氏の業績の一端を伝えます。