「本当に大切なことって何だろう」。
コロナ禍によってあらゆる優先順位や価値が大きく転換していく中、そう問うことが多くありました。
これまでも日々の雑事に追われ、何か大切なことを置き去りにして生きているのではという危惧を感じていましたが、この機に立ち止まって考える時間を与えられたように思います。
そうして日常や家族の様子などを見つめ直しながらこの展覧会の企画について考えていた時、
同じように立ち止まって考える人たちに向けて「ことば」を贈る展覧会を作りたいという思いが芽生えました。
「ことば」は、語り、伝え、考えるための道具です。
しかし人間は「ことば」にならない感情の震えを抱えて生きており、アートはそれを様々な方法で表現してきました。
本展は「ことば」の力と、「ことば」にならない「かたち」を探りながら、
冒頭の問いについて二人のアーティストが応える試みです。
ミヤケマイは、伝統的な日本の美意識や工芸的手法を現代に繋ぎ、
書画という日本美術のフォーマットに則り、「言葉にできることとできないこと」で一つの世界を構築し、
作品が置かれる場所の歴史や文化などの声なき声を拾い上げ、コンセプトや展示に組み込む、
サイト・スペシフィックアートを各地で展開してきました。
本展では、世界とつながる港町である県民ホールギャラリーの立地にふさわしく、舟や水を使った大規模なインスタレーションに挑みます。
人間の営みから、「わかる」ということ、人が何を取り入れ、何を排出するのかという問いに、真摯な眼差しを向けています。
華雪は、古代の人間が生み出した漢字の成り立ちから自然と人間との関係性をすくい出し、それを漢字一文字の書で表現します。
同時に、その文字が現代に生きる自分とどうつながっているのか思索した内容を文章で綴り、
書とテキストによるインスタレーションとして発表してきました。
本展では、人の根源にある自然への畏れを「木」という文字を糸口に再考し、
人が精神の奥底から「ことば」を取り出す「書く」という行為そのものとあわせて作品化していきます。
ミヤケマイと華雪―。
各地で開催される芸術祭や個展、グループ展での発表の他、執筆活動など、近いフィールドにありながら、
これまでクロスする機会のなかった二人のアーティストが本展で出会います。
東洋思想の陰陽のように、あるいはコインの表裏のように、
「ことば」の光と影の関係性が止まることなく「かたち」を変えて入れ替わり流動する中、一つの世界が生み出されます。
神奈川県民ホールギャラリー