旅が日常を離れて、今いるここからどこかへ赴くことであるならば、旅の空間と時間は、美術館の空間とそこで過す時間に似ています。美術館で出会う作品は、わたしたちを遠くへ連れ去るばかりか、ときに身近な何か、知らずに過ぎたあれこれを思い起こさせます。もちろん、描かれた旅の風景や人々を見て(行ったことがあってもなくても)、旅情をかきたてられるということもあります。作品が旅の感覚をよびさますこともあれば、それを作った作者の移動の感覚が見るわれわれに投影され、見終わったあと、旅を終えて帰ってきたかのような充実感や虚脱感を得ることさえ可能です。作品から派生して、旅した作者その人の状況や心境に思いを馳せることで、より深い感動が得られる場合もあるでしょう。本展では、そのような美術館の空間とそこでの時間および作品がわれわれに拓く、旅の感覚、旅への想いを念頭に選定した収蔵作品をご覧いただきます。