日本は、浮世絵版画を中心に古くから版画の国として知られてきました。幕末以後、版画の近代化は、日本画や洋画にくらべると遅れをとりましたが、明治末に石井柏亭や山本鼎らが創刊した雑誌『方寸』を中心に、浮世絵版画とは異なる近代の意識に基づいた、創作版画が隆盛します。以後、日本の近代版画は、美術の一分野として大正から昭和にかけて着々と発展を遂げ、国内外でも高く評価されました。
本展では、大正から昭和にかけて版画の勃興につとめた平塚運一(1895-1997)から森谷南人子(1889-1981)、戦後の版画界をリードした斎藤清(1907-1997)、畦地梅太郎(1902-1999)、池田満寿夫(1934-1997)などの作品を一堂にご紹介します。あわせて、平成29(2017)年1月に逝去した銅版画の名手、深沢幸雄(1924-2017)を取り上げます。深沢は、山梨県に生まれ、昭和29(1954)年から銅版画を独習し、第25回日本版画協会展で協会賞を受賞しました。昭和38(1963)年からは、海外へと活動を広げ、メキシコ国際文化振興会の依頼によりメキシコシティで銅版画の技法を伝授。平成6(1994)年には、メキシコの勲章「アギラ・アステカ」を受章しました。92歳まで創作への情熱を燃やし続け、1000点あまりの銅版画、書(詩)、油彩画、陶芸、ガラス絵など、多彩な作品を残しました。特に、人間の豊さを、詩を謳うように、版に刻んだ銅版画家としての一面は、深沢芸術の真髄といえます。
本展は、大正・昭和・平成のそれぞれの時代に、自由で多彩な制作に打ち込んだ版画家たちの情熱を“万華鏡”のように味わっていただけることでしょう。是非この機会にご堪能ください。