大地への愛
ゴッホが画家として活動したのは、晩年の僅か10年に過ぎませんが、あの激しく力強い独特の作風を作り上げるまでには、レンブラントやロイスダールといった故国オランダの巨匠たち、ロマン派を代表するドラクロワ、同年代に活躍したジェロームやロートレックなど、数多くの画家からの影響が指摘されています。中でも、ミレーをはじめとするバルビゾン派が果たした役割は決定的でした。自然に対する深い愛情と農民の生活に対する強い共感を柱とするバルビゾン派の作品は、単に様式の点だけでなくその製作態度においてもゴッホに大きな影響を与えましたが、とりわけミレーに対する傾倒は圧倒的で、画家として歩むことを決意したゴッホが最初に行ったのは、ミレーの素描や複製画を模写することでした。彼が残した膨大な書簡の中にはミレーの名が繰り返し登場し、「ミレーは〈父ミレー〉なのだ」と称えながら、まるでキリストの教えを伝える使徒のように、ゴッホはこの農民画家を深く敬愛し、その生活を模倣し、晩年にいたるまで模写を繰り返しました。
今回の展覧会はこのゴッホとミレーの影響関係を軸に、バルビゾン派の画家たちを含む、大地と人間に対する深い共感を作品の中に込めた作家たちの活動を、アムステルダムのゴッホ美術館を含む世界各地の美術館・個人所蔵家の協力を得て集められた約100点の作品によってご紹介するものです。二つの偉大な才能の出会いと、それがもたらした豊かな成果の数々をどうぞお楽しみください。