油野愛子さんの作品には、たびたび出会っているのですが、六本木のANBでの展示が衝撃的でした。描くというのではなく、なにかが起きてしまっている感じ。実際には丁寧な作業の末に成り立っている作品なのですが、物体として生々しく、視覚にも触覚にも響いてくる感じが新鮮でした。是非、今回初めてとなる個展を体感してみてください。
小山登美夫
この度小山登美夫ギャラリーでは、油野愛子の初個展「When I'm Small / 小さかったころ」を開催いたします。本展は作家にとって当ギャラリーにおける初めての展覧会ともなり、立体、平面作品約15点を展示いたします。
油野は1993年大阪府生まれ。2018年京都芸術大学大学院美術専攻総合造形領域修了しました。2017年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)短期留学。2018年関渡美術館交換派遣研究員レジデンスプログラム(台湾)に参加し、主な受賞歴に2017年CAF賞入選、2019年群馬青年ビエンナーレ入選があります。
【油野愛子の作品制作-
素材の動きに現れる、未来への夢と大人の現実、移り気な散漫さ―】
「子どもの頃は大きく見えていたものが小さく感じたり、そのとき見えていたものや感じていたことが失われ、変わっていく様な瞬間、私はいつも小さいころの自分が側にいて、なりたかった姿を今に融合して生きていると感じる。愛着の様なさみしさや、大人になるということへの違和感、かつて想像していた未来への夢や期待を日常にみる現実社会との違いを交えて、悲しいことや嬉しいこと、怒りといった感情の束の間の衝動を、自身の子どもの頃の記憶や体験をもとに、この完璧でない世界を表現しようとしている。」
(油野愛子ステートメント)
幼い頃の未来への夢、希望と、大人になって知る現実。油野は、その違和感や悲しみ・喜び・怒りによる衝動を、立体、インスタレーション、絵画など、幅広い方法で表現します。金属や樹脂、陶芸、アクリル絵具など多様な技術と素材を使用し、戯れながらその特徴を研究。意図的な表現に素材自体の自然な動きが加わることで、作品には不安定な感情の揺れ動きが表われるかのようです。
絵画作品「Narrative」シリーズでは、アクリル絵の具が乾く前に上からスプレー塗装をすると、スプレーした部分が浮き上がって皮膜ができる特性や、樹脂の他素材とは馴染まないといったマイナス的特徴を利用し、絵画の見え方に立体的要素を取り入れて表現されます。水面のような光沢のある樹脂の表面は、重力を感じさせるとともに、静止した時間をも感じさせます。
立体作品「THE HOUSE」の素材の発泡ウレタンは、空気に触れることで泡を発生し、液体から個体に変わっていく。その化学反応を活かして、鮮やかな色彩のおもちゃの家が内面を吐き出すかの様に、どんどん成長する思春期の体のように、みるみる形を変えて窓や扉から隙間なく溢れ出し、しかもその立体をさらにブロンズに形成しています。
また、平面作品「KFC」では、レンチキュラー(かまぼこ状のレンチキュラーレンズに印刷をし、平面でも3Dのような立体感や奥行きを出し、角度を変えると絵柄が変化する技術)を用い、キャンディー、猫といった幼児性のあるモチーフを焼き払うように炎のイメージが重ねられており、村上由鶴氏はこれらの油野作品に「成長期の情緒不安定さの凝縮」を見出しています。
「この情緒不安定という大衆性は、油野の作品をアクチュアルに感じることのできる足がかりとなるだろう。感動や怒り、悲しみといった派手な感情ではなく、油野の作品世界に充満する散漫で移ろいやすい気分の中にこそ、いきるわたしたちのリアイリティがあるのだ。」
(村上由鶴「油野愛子作品集に寄せて」)
誰しもが経験したであろう、成長期のうつろいやすさ。
油野が試みる、過去を振り返りながら自分とは何かを問う表現に、鑑賞者は自身の情景を映し出すのではないでしょうか。
ぜひこの機会にご高覧ください。