安政2年10月2日(1855年11月11日)に江戸の直下で発生した安政江戸地震は、江戸の町に甚大な被害をもたらしました。地震の直後から、被災状況を伝える瓦版などさまざまな刷物が売り出されましたが、なかでも地震の元凶とされた地中の大鯰をモチーフとし、今日「鯰絵」と呼ばれる版画が目を引きます。さまざまな主題と趣向を取り入れ、200種を超えるものが発行されたといわれる鯰絵には、地震に対する怖れや震災後の世相に対する風刺、あるいは世直しへの願望など、民衆のさまざまな思いが投影されています。本展は初公開の黄雀文庫所蔵の鯰絵コレクションを通して、未曽有の災害に遭いながらも、諧謔(かいぎゃく)の精神でたくましく乗り越えようとした江戸の民衆の豊かな想像力の一端に触れようとするものです。