陶芸家 大樋陶冶斎には、伝統を継承する茶陶作家と現代陶芸を牽引する造形作家という2つの側面があります。355年の歴史を持つ大樋窯の継承者としての「十代大樋長左衛門」、土による自由な造形を極めた「大樋年朗」。長年に渡ってこの2つを並行して活動を続け、現在は「陶冶斎」と号しています。
「壺中日月長」は陶冶斎が自身の作陶について例えた禅語です。「壺中」は現実と隔絶した別天地、転じて時を忘れるような境地に至ること、「日月長」はいつのまにか長い年月が過ぎていたことを意味します。無心に作品をつくり続けていたらあっという間に今日になっていた、陶冶斎の生き方を表す言葉といえるでしょう。
本展覧会は3部からなります。初期からの作品と、作陶するうえで研究した古今東西の古陶などとの比較展示による第1部。十代大樋長左衛門作《黒茶盌 銘 汲古》を中心に据えた茶席仕立ての第2部。かたちや紋様に焦点をあて、造形的な作品を集めた第3部。この3つの視点から陶冶斎独自の表現を紹介します。
たゆまぬ努力による技術の研鑽、それにより到達した新しい表現世界。本展では陶冶斎が作陶に向けた深いまなざしを考察します。