今回の展覧会は、「コミュニケーション」がテーマです。近年ではメールやSNS、オンラインミーティングといった、デジタルベースのコミュニケーションが活発になっていますが、本来コミュニケーションとは、なんらかの情報を伝え、「共有」することを指します。つまり道具のいらない一番シンプルな方法は、ひとところに集まり会って話すこと、「いま・ここ」を共有することです。
「いま・ここ」を共有するという意味では、美術館の展覧会は、まさにコミュニケーションのための場だと言えます。そうは言っても「あまりおしゃべりしてはいけない雰囲気なのに、なぜ?」「ひとりで来ているけれど、なぜ?」と思われるかもしれません。しかし作品とじっくり向き合い、作者の考え方を追体験することは、わたしたち一人ひとりと作品とのコミュニケーションのかたちです。さらには互いに知らない者同士でも、各自の見方や意見がさまざまに重なったり、ズレていることに気づいたりすることで、作品という存在を介してコミュニケーションをすることができます。作られた時代も地域も違う作品が集う場所を共有するということ―そこにはもはや時間や空間の制限はありません。まさに展覧会はコミュニケーションのための特別な空間です。
では展覧会という場では、どのようなコミュニケーションが生まれているのでしょうか。展覧会に並ぶ作品の作者、 展覧会を見る人、そして展覧会を作る美術館の立場も含めたさまざまなコミュニケーションのかたちを、まさに「コミュニケーションの部屋」である展覧会において、考えてみたいと思います。