20世紀を代表する写真家のユージン・スミスと妻のアイリーン・スミスは1971年に水俣市に居を構え、公害病の原点とされる水俣病を3年間にわたり撮り続けました。1975年に刊行した写真集『MINAMATA』は大きな反響を呼び水俣病が世界で広く知られるきっかけとなりました。しかし、水俣病の原因企業が地域経済を牽引してきたチッソであったことから地域に利害の対立や感情のもつれなどが生じ、水俣や周辺地域では、水俣病の問題を鮮明にとらえたユージンとアイリーンの作品が公的機関によってこれまで積極的に公開されることはありませんでした。
本展では、アリゾナ大学クリエイティブ写真センター(Center for Creative Photography)とアイリーン・アーカイブの協力を得て、写真集『MIANMATA』に収められている写真と未発表の地域の日常を撮った写真などをアイリーンの監修により新たに約70点プリントし、水俣でユージンの助手を務めた石川武志がとらえたユージンとアイリーンの写真14点とともに展示します。
本展が、近代資本主義の経済偏重がもたらした災禍ともいえる水俣病について、さまざま立場の人が自身との関わりを模索し、個人、地域、社会の未来に思いを馳せながら思考を深める機会となれば幸いです。