公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第274回として、「記憶の領域 西成田洋子展」を開催いたします。
西成田洋子さんは古着や使い古したものを素材にした立体造形と平面作品をインスタレーションとして展示しています。
水戸市生まれの西成田さんは、幼い頃から大叔父である彫刻家の故・木内克のテラコッタやデッサンなどが身近にある環境で育ちました。東京でデザインを学びましたが、絵を描くときに絵具を盛り上げるなど三次元への志向が強いことに気付き、身の回りにある衣類や日用品などさまざまな素材を用いた立体作品を制作し始めます。当時の美術界はオブジェへの関心が高まっていたこともあり、西成田さんはさまざまなコンクールに入選して注目を浴び、展示の機会を得ました。次第に鉄などの金属や廃材、トタンなどを取り入れ、自立する大型作品が増えますが、文化庁海外派遣によるニューヨークでの滞在制作を経て、素材の中心は再び古着や身の回りの品々に戻りました。
西成田さんは漠然とした構想だけで手の赴くまま、古着や使い古した皮革製品などを切断したり縛ったりして形を作っていきます。使い古されたものに宿っている記憶が西成田さん自身の記憶を呼び起こし、その手を自由に動かします。その原点には、子どもの頃に友人の家の五右衛門風呂を見せてもらった時に持っていったバッグの飾りが熱で変形してしまったことを「面白い」と感じるなど素材の変容に興味を覚えた経験がありました。柔らかく手に馴染む古布は、糸で縫い縮められた赤や茶色に着色されますが、繊維の質感は生々しく残ります。重苦しく凝縮された結果立ち現われた形は、深淵を覗きみるような穴を持つ記憶の集積物となり、観る者の心の奥底にある記憶や閉ざされていた感情を揺さぶり起こすのです。
今展では、立体・平面・ドローイングを含む作品を第1会場の前後期と第2会場に分けて展示します。