公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第273回として、「有線七宝 森千鶴子展」を開催いたします。
神奈川県出身の七宝作家・森千鶴子さんは、グラフィックデザインの専門学校を卒業後に就職した会社で七宝に出合いました。仕事は図案デザインと七宝製品の原型制作でしたが、その他の様々な七宝技法を勉強していく中で、特に有線七宝に惹かれ窯を購入して個人的にも制作を始めました。
1983年、森さんは自然が身近にある暮らしを求めて家族と共に笠間市に居を移します。地元の陶芸家と知り合う機会が増え、彼らに触発されて七宝作家として活動するようになります。それまで都会の街中で暮らしてきた森さんは、転居して初めて目にする豊かな自然の中、名前も知らない草花の美しさに心を奪われ、その新鮮な感動を込めて図案を起こした香炉などを公募展に出品していきました。2006年には日本工芸会正会員となり、翌年には念願だった七宝の老舗・安藤七宝店(東京銀座)での個展開催を叶え、現在は常設もされています。
有線七宝は、金属などの素地に純銀の線で模様の枠を立て、そこに砕いたガラス質の釉薬を盛り焼成する作業を繰り返す技法です。釉薬が枠線で区切られて明瞭で細密な模様を表現できます。森さんは薄い銀線を用いて植物の形を可能な限りリアルに写し取り、独自に調合した半透明の釉薬を重ね複雑で深みのある色彩を追求します。細部まで神経を行き渡らせて根気強く繰り返す作業の果てに生み出される作品は、密やかに野に咲く草花の姿を、凛々しく可憐に表現しています。
今展は森さんの優品36点を、二期に分けて展示いたします。