タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、6月5日(土)から7月3日(土)まで、名和晃平 「Wandering」展を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの初個展となる本展では、名和が京都市立芸術大学在学時代に撮影した数多くの写真の中から約25点の作品を展示いたします。
京都芸大の彫刻科で学び始めた頃、自分が作家として何がしたいのかよくわからない時期が続き、下宿にあった中古のカメラで写真を撮りだした。
街をうろつきながら、興味の向くまま撮り溜めた写真は、今まで特に振り返ることもなく、実家の段ボール箱のなかで二十数年が過ぎていた。
この頃の自分には、人々や街や時代の空気を傍観するような態度があった。しかし時折、衝動的に惹かれたものが写真のなかに見え隠れしている。
名和晃平 2021年5月
シリコーンオイルで満たされた水槽の中を水の粒子が落下する「Water Cell」や、菌類が重力に抗って成長するさまをグルーガンで壁に直接描いた「Catalyst」、巨大な水の泡が生成と消滅を繰り返す「Foam」など、Cell(細胞)という概念を基に名和が生み出した作品群は、彫刻という枠組みを解体し、インスタレーション、建築、舞台美術など様々なメディウムを横断した、新たな視触覚経験へと誘う独自の造形言語を確立しました。
Cellはまた、色やテクスチャー、素材感などオブジェクトの表皮を知覚する人間の感覚器官細胞でもあります。インターネットを介して手に入れた動物の剥製や玩具などの表面をクリスタルガラスの球体(レンズ)で覆った作品「PixCell」によって名和は、カメラのレンズ(現在はスマートフォンのレンズ)を経てネット上に日々形成される膨大なイメージの大海に世界が飲み込まれ、ものの表皮である物質性が希薄化し、世界が映像化するデジタル時代の幕開けを鋭く指摘しました。
本展にて初めて公開される写真は、「PixCell」シリーズの原型となる作品が生まれた2000年の直前、京都市立芸術大学在学中の数年間に撮影された作品です。35mmフィルムカメラを手に京都の町を歩いた名和がスナップショットで撮影した写真は、演出されることなく、偶然出会った被写体が控えめな距離感で時に思い掛けない構図で切り取られています。その後世界の表層への関心を基点に名和の作品は展開していきますが、これらの写真作品からはその胎動を感じ取ることができます。