メルヘン(Märchen)―
とはドイツ語で、古くから伝えられてきた民話やおとぎ話を指します。誰もが子どもの頃にふれた童話のように、どこか懐かしく、そして少し寂しい、メルヘン的な叙情性を持つ銅版画で知られるのが南桂子(1911~2004)です。南桂子は現在の富山県高岡市に生まれ、38歳の時に版画家の浜口陽三と出会ったことで版画制作を始めます。浜口と共にフランスへ、後にアメリカへ渡り、多色刷り銅版画の制作、発表を続けました。細い描線による少女、鳥、木や城などのモチーフが紡ぎ出すその独特の世界は、子どものような純真さと遠い国への憧れに満ち、私たちの心に過ぎ去った日々の優しい記憶を呼び起こしてくれます。
この展示では、群馬県立館林美術館が235点所蔵する南桂子作品のコレクションより、約60点を紹介します。あわせて群馬県立近代美術館の所蔵作品から、他の作家たちによる銅版画約20点を展示します。線による繊細な描写が創り上げる幻想的で詩情豊かなイメージをお愉しみください。