ヒノギャラリーでは2021年6月7日(月)より「是枝開 新作展」を開催いたします。
前回是枝にとって約10年ぶりとなった弊廊での個展では、植物をモチーフとした油彩画を発表しました。ただそれは、植物といってもいわゆる静物画や風景画とは異なり、モチーフの周りで起きている事象、光の変化や色彩の移ろいといった物理的にはとらえがたい現象に着目した、作家の知覚に基づく絵画作品でした。以後、是枝は本シリーズを継続させ、今回はその最新作を展観いたします。
この作品の制作プロセスをおさらいすると、まず動画で植物やその周辺の風景を撮影、そこからある場面をキャプチャーし、静止画にします。そのイメージをキャンヴァスへと拡大転写し、そこからようやく絵具を重ねていきます。彩色はモニターに映し出されたキャプチャー画像を見ながら、かすかな変化も逃すまいと丹念におこなわれるため、現実ではとらえきれない微妙な光の強弱や色彩のグラデーションが画面におさめられています。
全体はピクセル画のようなデジタルの様相を帯びながらも、細部に目をやると、絵具の重なりや筆触といったマチエールが確認でき、それが絵画であることを気づかせる媒介となっています。と同時に、その物質性は、この世に存在するものやあらゆる現象は事実であるというメタファーとも受け取れ、それらを知覚するための広い視座と柔軟な感覚が重要であることを示唆しているようにも感じられます。
ミクロの視点から、視覚的にとらえきれない、もしくは、それを超えたところにあるマクロの世界をつかもうとし、またその逆を試みていることからも、作家の知覚に対する探求はうかがえます。是枝作品の本質がそこにあるとすれば、画面に描かれたものは、より複雑で重層的なものとして映ることでしょう。
是枝の個展は前回から約3年ぶりとなります。さまざまな視点、感覚でご鑑賞いただければ幸いに存じます。