公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第271回として、「生命(いのち)の鼓動 藤島大千展」を開催いたします。
日本画家・藤島大千さんが日本画を志す決意をしたのは、美術の勉強がしたいと20代の時に訪れたヨーロッパの地でした。オランダの美術学校で西洋美術の長い歴史を踏まえた現代アートの在り方に接し、日本人である自分がそこで何を出来るのか疑い始めた時に、偶然手に取った雑誌で小林古径*1の作品に出合ったのです。それは西洋とは全く異なる思想に立脚し、対象の本質を捉える簡潔な線で描かれた日本独自の絵画でした。日本画家である父・博文さんを見てきた藤島さんにとっては身近な世界でしたが、それまでは大変さしか目に入っていなかったといいます。藤島さんは帰国後、父の師でもある故・高山辰雄*2に師事し、日本と東洋の美意識と歴史について薫陶を受けながら、本格的に日本に取り組み始めました。
藤島さんは日展を中心に人物画を発表しています。身近な家族を描いた母子の姿から、聖書や神話、中国の故事などの題材、そして近年では生命の象徴としての女性像を描いています。根底にあるのは、さまざまな苦難や困難の中で悩み嘆きながらもそれを受け入れていく根源的な人間の強さ、命そのものの輝きと美しさです。そして背景には中国の各時代や日本古代の意匠を参考にした蠢くような文様を描き込み、力強い画面を構築しています。
今展の第1会場の藝文ギャラリーでは日春展出品作を中心に幅広いモチーフの作品15点を二期に分けて展示、第2会場の藝文プラザでは日展出品の大作9点を展示します。
公益財団法人 常陽藝文センター
*1 小林古径(1883-1957)…新潟県出身。日本美術院を中心に活躍、文化勲章受章、極限までに単純化した線と色彩によって清澄な作品を制作。
*2 高山辰雄(1912-2007)…大分県出身。深い思想性とそれまでの日本画にない重厚なマチエールにより戦後の日本画界を牽引した。文化勲章受章。