野村佐紀子(1967―)は、男性ヌードなどの静謐な写真で、国内をはじめ海外でも高く評価されてきました。出身地の下関で初めてとなる本展では、代表作に撮り下ろしの最新作を加えた約150点の写真作品で、写真家としての歩みを展観します。
タイトルの「海」は、日本海に面した下関市綾羅木に育った彼女の生い立ちに起因します。同時に、モチーフとして海や波が表れるだけでなく、静かだけれども激しい、繊細でありながら力強いといった、彼女の写真に潜むアンビバレントな魅力にも通じるものです。愛おしさと切なさが交錯する故郷への思いも、死と隣り合わせの生の儚さや、だからこそかけがえのない愛の行為も、被写体との距離を丁寧に確かめながら真っ直ぐに捉えてきた彼女の眼差しを通してご紹介します。