日本列島は高低差のあるさまざまな山岳で形づくられ、深山を源とする大小の河川が海や湖に一気に流れ込んでいます。北は知床半島、南は屋久島にいたるまで日本の地形は名瀑や美しい渓流を数多く生み出し、古来より画題を提供してきました。
水辺を好む日本の人々は、枯木寒泉の冬から紅葉に初雪が舞う初冬まで、四季折々の渓谷の美を堪能しました。そのなかで和歌山県の那智の滝に代表されるように、滝はご神体として信仰されることがあり、滝を主題とする風景画には特別な意味が与えられました。
小野竹喬は、青年時代、竹内栖鳳塾の仲間たちと、京都北方の大悲山や南紀の熊野まで徒歩で渓谷を辿ることがしばしばありました。交通手段が発達した現代においても、滝や渓流を訪れるためには山道や沢を徒歩で巡らなければなりません。私たちの目の前に、名瀑の景観が一瞬に開けたとき、竹喬たち画家が得た感動を共有できるかもしれません。
このたびの企画では、北海道の定山渓、青森の奥入瀬渓谷、栃木の塩原渓谷、長野木曽路の渓谷群、埼玉の長瀞、三重の赤目渓谷、京都の嵐山や高尾、和歌山の瀞峡、山口の長門峡など、日本の名だたる渓谷を描いた作品をご紹介します。青楓が目に清(さや)かな季節、日本の自然美の一つのシンボルである、渓谷の美をお楽しみください。