愛知県稲沢市に生まれた荻須高徳(1901-1986)は、東京美術学校で学んだ後、本場の油絵を学ぶため1927年に渡仏しました。パリに到着した際の第一印象を荻須は「街の家並みは陰鬱でなんと真っ黒であったことか」と驚きをもって語っています。荻須はパリの街をくまなく歩き描き続けるうちに、歴史が重なり生活者の息遣いが伝わる建物の魅力に次第に強く惹かれていきました。1940年6月、前年に勃発した第二次世界大戦のため荻須はやむなく帰国しますが、敗戦後、日本人が海外へ渡航することが未だ困難な1948年に日本人画家として初めて再渡仏し、1986年に亡くなるまで戦前戦後を通して半世紀以上、パリの画家として活躍しました。
建物に人間の暮らしの軌跡を見出し、生活者に温かな共感を寄せて描いた荻須の作品は、建物から暮らしが感じられるなどと評価され日本だけでなくパリの人々からも長く愛され続けています。
生誕120年を記念する今回の展覧会では、パリの街並みを描いた作品を中心に、渡仏初期から晩年までの荻須の代表的な油彩画81点を一堂に展示します。また、まとまって公開されるのは40年ぶりとなる、荻須の画文集『私のパリ、パリの私 荻須高徳の回想』に掲載された素描や収録されている荻須のことばをあわせて紹介し、長きにわたる荻須の画業を振り返ります。