工芸には「用と美」あるいは「機能と装飾」という、一見、互いに矛盾するかにみえる二つの要素が、同時にひとつの作品の中に要求されるという性質を孕んでいて、この矛盾とも思える「用と美」が工芸の本質を示しています。つまり、工芸作品に求められるものとは、人が使用するものであることから、便利であるとか、手になじむ、手触りがよいなどの条件と、見て形が美しい、色合いがよいことなどが重要で、さらには丈夫であるということも大切です。結局のところ、使い心地が良く、見た目に美しく、耐久性があって、素材も美しいことが、工芸としての本質を物語っています。展示された作品を来館者が観覧し、それぞれの思いや好みによって選ばれる作品は、当然のように種々異なってきます。美術館では管理上、これらの展示作品を来館者が手にとって鑑賞することは無理ですが、自分の好きな作品を選ぶことは自由であり、それらを思い巡らすこと自体とても楽しい。自分の物として手に入れることは叶わなくとも、空想の範囲で好きな美術作品を所有することは自由であるからです。
今回は、優れた伝統を受け継いだ身近な“工芸作品”をじっくりと楽しく観覧できるように企画しました。展示される作品は、森口華弘の友禅着物、清水卯一の陶芸器、志村ふくみの紬織着物、信楽焼の高橋楽斎、上田直方、大谷司朗の作品、そして、杉田静山の竹工芸作品など、国の重要無形文化財保持者(人間国宝)、滋賀県や信楽町指定の無形文化財保持者の作品を中心に、湖国滋賀や当美術館に関係のある作家の優れた工芸作品、約150点を一堂に詳しく紹介いたします。