一貫して「表と裏」を主題に制作を続ける画家、谷 充央(たに みつお、1945年生まれ)。
谷は、「人は“表と裏” “内と外” “陰と陽”あるいは“本音と建前”を使い分けながら、しかし常にその二面性を包含している“個”」であり、「そんな表裏を一つの面で同時に表現したい」といいます。
最初期には画布の表裏をモチーフとして “表裏があるもの”の形象を画面上に示していた谷ですが、次第に、画布の「裏」側から布地の目を通して「表」側に絵具を滲出させる、という手法を取るようになります。それは東洋絵画などにおける裏彩色とはまったく意を異にするもので、あくまで「表と裏」を同時に表現するための方法です。谷の絵画において表裏は同価であり、いうなれば、谷は「表」でもあって「裏」でもある絵画をつくりだそうとしています。
谷はしばしば、画題を“Landscape”としています。彼のいうlandscape(=風景)は、私たちの外側―当然「内」があっての「外」ですが―に拡がる様相やそのイメージを意味してはいません。「表」と「裏」とがつねに入れ違い立ちあらわれる谷の絵画において、landscape=風景とは、一方向から眺望されるものではなく、「表」でもあり「裏」でもある、あるいは「表」でもなく「裏」でもない、いわば全体です。それは、この現実世界において「表」と「裏」とを包含する私たち自身の在りようとも重なるのです。
本展は、無類なる画家・谷充央の初期作から最新作までを一堂に展観する初めての機会となります。アクリルや墨などによる絵画、シルクスクリーンによる版画など約50点から、谷の仕事を紹介します。会期中には、〈ぎゃらりー由芽のつづき〉、武蔵野市民文化会館展示室においても特別展示をおこないます。どうぞご期待ください。