清方芸術を特徴付けるひとつに、40年以上にわたり深く親交した泉鏡花からの影響が挙げられます。
若き日の清方は、鏡花の文学作品の熱烈な愛読者で、鏡花の小説に挿絵を描くことを目標に研鑽を重ねていました。やがて新進気鋭の挿絵画家となった清方は、明治34年(1901)の春、その評判を聞いた鏡花から、出版社をとおし新刊本『三枚續』の装幀を依頼されます。作画を進めていた同年8月、安田松廼舎(まつのや)を介し、ついに憧れの鏡花と会うことになります。二人は初対面から旧知の仲のように意気投合し、以後、数々の鏡花の文学作品で清方は挿絵や装丁を手がけていきます。そして、日本画壇に活躍の場を移してからも、鏡花の文学世界に好んで取材し、卓上芸術の名品と評される《註文帖》等を生み出しました。
本企画展では二人の出会いから120年を迎えることを記念し、鏡花の小説のために描いた挿絵や関連する日本画作品を中心に、清方と鏡花の交流と芸術上の広がりを併せてご紹介します。