阪本文男(1935-86年)は、東京に生まれ、第二次世界大戦中・戦後の混乱を避けて祖父母の家のある柏崎市で少年時代を過ごしました。高校卒業と同時に画家を志し帰京。東京芸術大学を卒業後は、モダンアート協会を主な舞台として活躍しました。
阪本は、1950年代後半のアンフォルメルから受けた鮮烈な影響を出発点とし、色彩や形態を抑制していく表現や、広告写真から引用したイメージとカラフルな色の帯をシステマチックに組み合わせた画面の展開を次々と試みて、一躍、注目されます。そして、70年代半ばより、丹念な写実描写を基本に据えながら、存在そのものへの深い問いかけを、虚構の空間に浮かぶ枯葉や、乾いた果実などに託して描く詩情豊かな表現へと移行しました。
一方、彼は、美術教育の分野においても、高校教諭としての実践をふまえた提言を行い、教科書の編纂に精力的に携わるなど、優れた業績を遺しました。
本展では、高校時代の初期油彩作品から、生前、最後に訪れた柏崎海岸で拾った流木をモティーフとする、絶筆の作品まで、阪本文男の画業の全貌を紹介します。