20世紀イギリス絵画を代表する画家ベン・ニコルソン(1894-1982)の本格的な回顧展を開催いたします。イギリス美術の伝統とヨーロッパ大陸の新たな潮流、あるいはイギリス南部の素朴な芸術など、さまざまな要素を取り入れ消化しつつ、自分自身の絵画を創造するにいたったニコルソンのきわめて味わい深い仕事を充分に振り返ろうというものです。
ニコルソンの絵画は、風景画と静止画を中心にして展開されました。しかしそれらは眼に見える対象をそのままに写すのとは違い、繊細な色調と魅惑的な線によって、ときに半ば抽象的になり、ときに風景や静物の本質に届く幾何学的な形態で表されています。高名な画家だった父ウィリアム・ニコルソンの影響とその超克、ピカソやブラックのキュビズム、モンドリアンの新造形主義の感化、漁師でありながら素朴で力強い絵を描いたアルフレッド・ウォリスの発見、それらを通してニコルソンの芸術は形成されていきます。そして妻のバーバラ・ヘップワースやヘンリー・ムーアらとグループ<ユニット・ワン>を結成してイギリスの抽象芸術を推し進め、自らの絵画の方向を定めていったのです。とくに第二次世界大戦後に制作されたレリーフ絵画は、彼の生涯の後半期を決定的に性格づけるばかりでなく、抽象芸術の到達点を示して、20世紀後半の絵画を語るには忘れる事ができません。半具象と抽象のあいだを行き来しながら、線の魅力と透明感あふれる色彩を湛えるその作品の数々は、どれもが見る人に深い印象を与えます。本展覧会では、そうした絵画のなかから、ニコルソンの生涯にわたる代表的な作品約90点を網羅して、初期から晩年までの変遷と彼の画業の高みをたどります。