「ここにあるしあわせ」は「ただそこにあるというしあわせ」。
この世にカタチがなくても、何かが存在している、そして存在したという痕跡が私達の側には沢⼭あると思うのです。それは⼈の魂の中に宿る温度や色彩のようなものかもしれません。
目には見えない記憶をたどって描き、描くことでまた記憶にたどりつく。
それらの全てがここにあるしあわせです。
近藤亜樹
2019年冬から2020年春にかけて、近藤亜樹が故郷・札幌にて描いた50点の作品群「ここにあるしあわせ」が一冊の本になりました。シュウゴアーツでは刊行を記念し個展を開催いたします。
近藤亜樹の大胆で伸び伸びとした筆致や鮮やかな色使い、ユーモラスで想像力を掻き立てるイメージの 数々は多くの人の心を捉えてはなしません。その一方で近藤の制作は東日本大震災や身近な喪失の体験を経 て、常に独自の死死観のもとに描かれています。「ここにあるしあわせ」のモチーフは、生を祝して贈る花、生を労われて贈られる花、彼方へ眼差しを放つ子供、重なり合う空のコップなど、他者と関わりながらも、個々に明滅する命の姿でもあります。
如何なる状況下においても絵画から離れることなく、また悲壮な表現に甘んずることなく、今生きることを力強く肯定する作品を描き続ける近藤亜樹。今までは絵が生まれるスピードに時として自分の気持ちが追いつかなかったといいますが「ここにあるしあわせ」の制作を通し、生きることと描くこととが重なり合う実感を得るに至りました。制作の完了をもち、昨年夏に近藤は母校・東北芸術工科大学がある山形への移住を決心し、現在は新たな制作の環境を整えつつ次なる作品を構想しています。