今から2500年ほど前、釈迦は沙羅(さら)双樹(そうじゅ)という木の下で、その生涯に幕を下ろしました。これを「涅槃(ねはん)」といい、様々な逸話をもって語られる釈迦の生涯においても、特に重要視されています。この展覧会では、涅槃を絵画化した「涅槃図」を取り上げ、加茂地区を中心とした作例とともに、岐阜県下の名品を紹介します。大きな画面中に横臥(おうが)する釈迦を中心として、菩薩や僧、動物たちがひしめき合い嘆き悲しむ様は、見る者を圧倒します。その中で、歴史的な変遷とともに、原点である経典を基本としながら、細部にまで散りばめられた意味を紐解いていきます。人の命の重たさや儚さをひしひしと感じる昨今。涅槃図は、まさに密ともいえる画幅の中で、崇高な精神性を筆触鮮やかに伝えています。涅槃図を通して、今に通じる人々の信念や祈りの奥深さを知る機会となれば幸いです。