■第10回田口貴久展に際して 笠井誠一
田口貴久君と愛知芸大在学の頃に出会って45年が経つ。年齢の違いや教師と学生の隔りを越えた交わりは今も変わりなく、切先の鋭い彼の問いかけに鍛えられながら、私も緊張感を交えた愉しい時間を共に過している。
1993年の名古屋画廊第1回田口貴久展の折に一文を寄せているが、その頃から彼の一貫した姿勢は変わっていない。様々な試みや体験が創作に厚味を加えている。数年前に始まる風景の取材は、自然観照を通して課題の領域を広げており、そうして築いて来た田口君の近作が今回一堂に集められる。
《テーブルのある室内》は未解決な部分を残しながら数々のモチーフが相互に関係しているが、スケールの大きな空間に収められた。《つぼ、オレンジ、梨など》はセザンヌを意識しながらも構造の究極を感じさせる。亦《田園風景》の天と地に還元された画面は、風景を越えて彼方へ誘う。
学生時代から田口君の作品は力強い筆使いが特色で、現在は抑制が効いていても基本的に変わっていない。野性と知力と骨力が一体になって、近年の作品は禅味を帯びている。
名古屋芸大での教職を辞してからも創作と発表に倍旧の活動が見られるが、やがて古希を迎える田口君の世界が今後どの様に拓かれて行くのかが期待される。(立軌会同人・愛知県立芸術大学名誉教授)