■桑山忠明展―展示空間の綜合性 馬場駿吉
桑山忠明は1958年、26歳の折ニューヨークに渡った直後から、従来の絵画が当然のように纏って来た属性を根底から見直すことを始めた。その結果、情緒的な物語性、思想、哲学、宗教などの介入を一切許さず、それらを表徴する形象も追放し、作品は澄清なモノクロームの平面にゆき着くことになる。1960年代のニューヨークを席捲した猛々しい抽象表現主義的な美術の一方で、静謐さを求める、いわゆるミニマル・アートに一見、共通する点があるようにも思われがちなのだが、桑山自身はその中に括られることを強く忌避する。
美術の属性として、最終的に重要な色彩にも、本来一定の感情を励起させる力があり、桑山は色彩間においても等価性を重んじ、中性化するような配慮を怠らないという。
今回展示される作品は、2010年前後から試みられているチタン〔アノダイズド・チタニウム(ピンク、イエロー)〕を素材とする作品シリーズ。その展示壁面から距離をとって視線を移動させると、色感が変化する不思議な体験が出来る。このように桑山作品は展示空間まるごとが作品というコンセプトを持ち、ミニマルとは逆の綜合性につながる一面のあることが認識出来よう。(美術評論)